
わが家にクロがやってきたのは平成29年2月26日(日)。
東急ハンズ渋谷店6階、ペット用品フロアで妻が子猫のぬいぐるみを見つけた。
「これ、お義母さんにプレゼントしたら?」
実家で一人暮らしの老母は大の猫好き。
私が20歳の頃、アルバイト先近くの動物病院で茶トラの子猫を偶然見つけ、
あまりの可愛さに思わず引き取って以来約35年間、
わが実家には常時数匹の猫がいた。
しかし、最後まで残っていた黒猫が4年前、
81歳で亡くなった父の後を追うようにして18年の長寿を全うして以来、
実家から猫の姿が消えて久しい。
老母はこの4年間ずっと
「ああ、また猫を飼いたい。
でも私が死んだらその後の面倒見てくれる人もいないから…」
と、猫のいない寂しさを口にしてきた。
そんな、85歳の老母には今、常に数体の猫のぬいぐるみが寄り添っている。
これは私や妹が少しでも老母の寂しさを癒そうと、折に触れて買い集めたもの。
中でも彼女のお気に入りはだらんと伸びた格好の大人の三毛猫で、
これは私が去年の春に買い与え、それ以来老母は毎晩一緒に寝ているという。
その手足の指にはごていねいに肉球までついていて、なかなかリアルだ。
しかし三毛猫だから白毛の部分にやがて汚れが目立つようになってきた。
妻は「今度は汚れが目立ちにくい黒猫のぬいぐるみを差し上げたら」と常々口にしていて、
この日めでたく東急ハンズ渋谷店で発見した。
しかもそれは全長約20センチの子猫だから、小柄な老母の腕にもすっぽり収まる。
値段も3千円台と手ごろなこともあって購入した。
ところが翌日になって妻が
「このぬいぐるみ、お義母さんに差し上げる前に、
1週間ほどこの家に置いておいてもいいかしら?」
と言い出した。
今回のことはまだ老母には何も話していないのでまったく問題ない。
「別に構わないよ、でも何で?」
「なんだか妙に可愛くて」
「なるほど、よく見ると愛嬌のある顔をしているね」
とはいったものの、所詮はぬいぐるみ。
1週間も置いておけば妻の気も済むだろうと思ったが、
やがて私自身の気が済まなくなってしまうだろうとは、
この時はまるで思ってもみなかった。
もちろん、この日の時点ではまだ「クロ」という名前さえつけられていない、
ただのぬいぐるみである。
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